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論文がアクセプトされました!

  • 執筆者の写真: Kentaro Ono
    Kentaro Ono
  • 1月8日
  • 読了時間: 5分

あけましておめでとうございます。

年末といいますか、12月の頭にひとつ論文がアクセプトされました。


Stream segregation reduces the subdivision cost in auditory-motor synchronized tapping


私はアマチュアのオーケストラでチェロを弾いているのですが、ゆっくりとしたフレーズを弾いているとだんだんと拍がわからなくなってきて、延び延びになってしまいます。そういうとき、指導者からは「裏拍を感じなさい」とよく言われるのですが、実際それを意識するとあまり延びないような気がします。なぜでしょうか?


実は、裏拍を感じることで音に対する同期運動の精度が良くなるということを示した研究があります。ピッピッピッと鳴る音にタイミングを合わせて指でタッピングをするという同期タッピング課題において、同期すべき音と音のあいだ(裏拍のタイミング)に余分な音を加えてやると、同期すべき音とタッピングのずれが小さくなるという現象が報告されています。(Repp, 2008; Repp & Bruttomesso, 2010など)


この現象はsubdivision benefitと呼ばれ、なるほどこれが裏拍を感じることの大切さかと思いました。しかしアマチュア演奏家の宿命として、ゆっくりなフレーズは延びる一方で速いフレーズはより速くなるとよく言われます。そこで私は、このsubdivision benefitを利用すれば速いフレーズも正しく弾けるようになるのか?と思い、音の提示間隔を短くして速い刺激を作って実験してみました。すると、音の提示間隔を600msにすると裏拍を加えた方が同期しづらくなるという結果になりました。提示間隔をいくつか変えて実験してみると、提示間隔が大体1秒よりも長いと裏拍があった方がよく(= subdivision benefit)、1秒以下になると裏拍がない方がよい(= subdivision cost)ということがわかりました(Ono et al, 2022)。つまり、速いフレーズのときは裏拍を感じても仕方がないということになります。


提示間隔1秒を挟んで裏拍の効果が反転するという現象は視覚でも確認されたことから(Ono, 2022)、このsubdivision effectは脳における音や視覚刺激の物理的な情報を処理するレベルではなく、おそらくもっと高次の抽象的な情報処理過程において生じる現象だと思われます。


そこで、聴覚心理学の分野では有名な音脈分凝(stream segregation)を使い、音の提示間隔は変えずに音の知覚を変えたらsubdivision effectはどうなるのかを調べたのが今回採択された論文です。よく使われるABA_ABA_という音列でBの音のタイミングに合わせてタッピングをさせる課題を行うと、提示間隔に依存した形のsubdivision effect自体はこれまでと同様に見られました。しかし、AとBの周波数差が小さい(= ABAの音列として知覚される)場合の方が、周波数差が大きい(= AとBが別々の音列として知覚される)場合よりもsubdivision costが小さくなるという結果になりました。


このことから、やはりsubdivision effectは刺激の物理的な情報処理過程ではなく、より高次の抽象的な情報処理過程において生じる現象である、ということが示唆されました。


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この論文は最初にNeuroscience Lettersに投稿したのですが、まさかの査読に回る前にrejectされ、Heliyonを紹介されました。しかしこのHeliyonの編集部対応が信じられないほどとてもひどかったので、その顛末をここから書いていきたいと思います。レビューアーは2人で、最初はがっつりとしたmajor revisionでした。そのreviseを提出したら、一人はOKでもう一人もコメントが一つだけという、もうほぼアクセプト状態のminor revisionで3月末に返ってきました。ところが4月1日に2nd reviseを提出したところ、その後音沙汰もなく、催促のメールを何度か送ってもAuthor supportから定型文のメールが届くだけで何も進まず、なんと7月中旬まで放置されました。その後「データ公開の方法についての記述を追加しろ」との返答がようやくあり、それに対する 3rd reviseを提出しました。するとまた放置され、催促メールを送ってもAuthor support以外の反応がなく、10月頭になってようやく今度は倫理審査の書類を出せ、サンプルサイズの根拠を示せ、図の書き方を修正しろ、という返答がありました。


この時点でもう取り下げようかと思っていたのですが、採択を急ぐ理由もなかったので、こちらも強気に出てみました。Heliyonはオープンアクセスジャーナルなので、採択されたらお金(APC)を払う必要があります。でもこれだけとんでもない査読対応をされているので、これ以上編集が遅延するなら取り下げるぞ、それが嫌ならAPCを無料にしろ、とメールを送ったら、編集長から承諾の返事がきました。なので、私の方としては採択されても懐は痛まないし、最悪rejectされてもほかのジャーナルに出し直せばいいだけという状況になりました。


このグダグダの編集過程がどこまで続くかを内心楽しみにしながら4th reviseを提出したら、今度は10月末に「実験を行った場所を記述しろ」という返答が届き、5th reviseをすぐに提出しました。するとまたしばらく放置された後、11月中旬に「実験を行った場所を記述しろ」という前回とまったく同じ内容の返答が届きました。さすがにあきれてしまい、「前回と全く同じ内容のrevise要請が来ているが、これ以上の遅延はこちらも望まないのでもう一度全く同じ内容のreviseを送るね」という嫌味を込めたメールを送り、6th reviseを次の日に提出しました。


そしたらまた一ヶ月放置されてようやく「I'm pleased to inform you ...」から始まる採択のメールが届きました。レビューに回ってから1年放置され、編集部に催促したら即日rejectされたという経験もありますが、ここまでひどい編集部対応は初めてでした。しかも腹が立つのは、このやり取りの中でエディターからの連絡は「なにか困っているようだけど、遠慮せずに連絡してね」というものが一度だけしかなかったことです。しかもこちらからエディターに連絡する手段がない(エディターのメールアドレスは公開されておらず、googleで検索しても同姓同名が多く誰かわからない)ので、まったく役に立ちませんでした。幸い編集長のメールアドレスは検索するとわかったので、途中からは編集長に直接メールを送って状況を知らせなければいけないという有様で、しかもAPCを無料にさせた以降は編集長からも返信が来なくなるという、もう逆に笑えてくるようなハチャメチャな経験でした。


ということで、minor revisionから採択まで9ヶ月かかるというとんでもない論文になりました。そして、もう絶対にHeliyonには投稿しないということを心に刻んだ論文でもあります。皆様もお気をつけて。



 
 
 

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